牛の完全食、TMRを製造するTMRセンター。ここでミックスし、希望する牧場へと配送をする
TMRとは飼料種の名称
TMRとは、Total Mixed Ration の頭文字を取ったもので、直訳をすると“一定配給量をミックスさせてまとめたもの”。その訳の通り、TMRは「完全混合飼料」を指します。価格、栄養価、給餌のしやすさ。いずれも優れた注目度の高い飼料で、乳用牛用のほか肉牛用もあります。
完全混合ですから、牛の主食となる粗飼料と副食の濃厚飼料(配合飼料)、さらにはビタミンやミネラルなど、必要な栄養素がすべて混合されています。つまりこれだけ給餌しておけばOK!これは牛にとっても酪農家にとっても好都合で、画期的なことです。
給餌バランスが計算されている便利さ
だいたいの牛は大好物の濃厚飼料ばかりを食べたがり、粗飼料を残そうとしますが、TMRはすべての原料が細かく刻まれ均一に混ざっているので、選り食いすることなく必要な栄養をバランスよく摂取できます。
TMRの飼料設計を行っているのは、獣医師や飼料会社のアドバイザーなど。専門家が携わるので、常食する牛の健康状態は向上すると聞きます。疾病牛が減り、泌乳量が増えたり繁殖率が高まったり。酪農経営にとっては何よりの効果でしょう。
またTMRは1種の飼料にまとまっていますから、牧場スタッフの給餌作業も軽減します。利用している酪農家は、「これまでは最初に粗飼料を給餌し、あらかた食べた頃に濃厚飼料を給餌していたけれど、TMRなら1回で済む。この時間短縮は大きいね。このほか単味飼料選びや量計算、発注や在庫管理の煩雑さからも解放されたので楽になったわ」と満足気です。
農場TMRセンターは全国各地に
TMRを製造するのは主にTMRセンターや飼料会社です。日本の酪農は、飼料コストの高騰や飼料作りの重労働、人材不足などが課題で、それらをなんとか解決しようと取り組んできました。そしてその解決策として2000年以降、農場TMRセンターが全国各地に設立され始めたのです。
TMRセンターの多くは、JAや自治体のバックアップのもと、利用したい牧場が集まり組合を作ったり、会社を作ったりするなどして運営されています。一部には民間企業のTMR供給会社もあります。
各牧場に合わせた対応が可能
TMRは、TMRセンターから利用牧場へ1日に1回もしくは2日に1回くらいの頻度で配送されます。中には各戸の給餌車に直接飼料を搬入してくれたり、ミキサー搭載飼料運搬車がフリーストール牛舎に直接入って給餌までしてくれるなど、至れり尽くせりのTMRセンターもあるようです。TMRをロールラッピングして配送するところもあります。ラッピングするとTMRが空気に触れず劣化しないため、数日分まとめての配送が可能です。ミキサー搭載飼料運搬車が入れない繋ぎ牛舎には、ロールラッピングが適しています。
牛にとってもおいしく栄養価の高い食生活に
TMRセンターや飼料会社はスケールメリットを利用して、個人では入手しにくい多種多様な原料を仕入れることが可能ですから、牛にとってはおいしく栄養価の高い食生活となります。
またTMRは原料を細粉して混合するので、地域の食品工場から出る副産物や食品残さを活用できることでも注目されています。製糖の過程で発生するビートパルプ、豆腐粕、野菜の皮など…。栄養価が高いものは数々あり、それらを活用することでコストダウンも図れます。
とはいえ、飼料は牛にたくさん食べてもらえてナンボです。
いくら栄養面が優れていても、牛がよろこんで食べないようでは意味がありません。どこの牧場の牛も“食い込み良く”食べてくれるよう、TMRの設計者は嗜好性を研究しながら飼料調整をしています。