4:換算だらけの食料自給率は実態を把握しづらい。ところで飼料って国内で作れるの?

前回、飼料のひとつ「とうもろこし」は“生産国の事情”に依存せざるを得ないことがわかりました。
では日本人が納得できる質量を将来にわたって確保するためには「日本で作れば済む話」なのでしょうか?今回は“粗飼料”のメインメニューである「稲」と「米」について考えてみます。

●日本にとって得意なはずのお米作りだけど・・・

このサイトでは食の基幹産業のひとつである酪農について、興味を持って知ってもらいたいことを発信してきていますが、養鶏も酪農と似たような位置づけにあります。牛乳・乳製品の自給率は60%ありますが、飼料自給率を換算すると26%に減り、鶏が生む卵も96%が国産ですが、飼料自給率を換算するとわずか12%(2017年度最新)になります。
牛にとって稲わらを発酵させたものは飼料の一部ですが、鶏は飼料の半分近くが穀類のため、国産米飼料へのシフトは卵の自給率に大きく影響するでしょう。養鶏家のポリシーによっては、鶏を健康に育てるための要素の一つとして国産米の飼料を使うという判断もあるようです。よーし、じゃあ積極的にどんどん食べてもらおう!と思ったところで、飼料米って、どこで誰が作っているのでしょうか。飼料なだけに一般には流通せず、よくわからないですよね。

●新幹線の車窓などから感じる、減りゆく畑や田んぼ

日本人にとっての米とは古くからのソウルフードですが、戦時中(大正時代)の米騒動を機に「安定的に入手できるよう」生産から流通まで国が積極的に介入してきています。そして、戦後の経済成長によって国民の食卓が豊かになり、洋風化するにつれ米の消費は減っていきますが、国はスタンスを変えて“作らせすぎない”ために飼料米への転作を奨励し、補助金を出してきています。これが「減反政策」で、なんと平成30年まで続いてきました。ついこの間のことです。
ところが最近では「これからは日本のおいしい米を世界に輸出して、生産者の所得向上に一役かってあげようぜ!」ということを国は言い出しています。作ることをさんざん減らしておきながら、減反政策だけ取っ払われ「さぁこれからは自由に作付していいよ!時代はグローバルだよ!いいブランドになるコメ作ってね!」といわれても、土も人も一朝一夕では育たないでしょう。目的よりも手段が先に決まっていくのはなぜなのかも含め、そんなに都合よくいくものなの?と疑問に思います。

●そしてここにもまた姿を現す、輸入農産物というモンダイ

日本の米についてはもうひとつ、ミニマムアクセスという輸入義務により毎年買わねばならない外国の米があります。そして、その輸入米の使途にもなんと飼料を見込まれています。コメは余らせたくないから飼料米を作れ、外国から買わされたコメも飼料にまわせって、家畜飼料って不都合のはけ口なの?という疑問が浮かんできます。
転作して飼料になった米も、しぶしぶ輸入された米も、自給率計算には律儀に足したり引いたり換算されているのでしょうが、このあたりの計算をいじっても食の安全や日本の食料自給率を上げることには繋がらないでしょう。
日本はいま世界の先進国のなかでいち早く超・高齢化社会へと向かっており、どの業界でも後継者不足や人材育成が叫ばれています。過疎化も著しい地方都市での農業は特に深刻です。半世紀近くも市場原理が働かない状態におかれながら、輸入品を買い続け、今度はもっと作って売れと、話がどんどん複雑になっていく。このやりっぱなし感はひどい。

●評価されて喜んでるだけでは、次世代に繋がっていかない

近年、世界中から注目され称賛されている「和食」です。日本の食文化を褒められて、悪い気はしないでしょう。しかしもっとも理想的な栄養バランスだったのは1975年ごろの家庭の食卓と言われています。約45年前は、現在ご長寿といわれている世代の皆さんがちょうど働き盛りの頃でもあり、野菜や魚、発酵食品のほか肉や卵、乳製品も食べられています。そしてこの年のカロリーベース食料自給率は、まだ54%もあるのです。
ドングリを食べておいしくなるイベリコ豚、というのは知っていても、鶏は穀物を食べて鶏卵や鶏肉を、牛は牧草を食べて乳製品や牛肉を、と、植物を動物性たんぱく源に替えてくれる存在であることをつい忘れてはいないでしょうか。そして、かれらの飼料は人間の食べものに姿を変えると分かっていながら、場当たり的な施策で得られた食料を食べることになるのは、これから生まれ育って行く子どもたちや、子どもを産み育てていく若い世代です。とても大事なことだからこそ、水面下で「誰かが決めてくれる」のではなく、どうしたらいいのかをみんなで議論していかなければならないと思います。

食糧自給率が低いところから始まったこのコラム。“率”という数値の上げ下げよりも「食料を自給する」ことをどう捉えるか、それが本質だと思えてきました。
自給率アップの詳細を掘り下げるのは数値の専門家にお任せするとして、次回は「食べること」と「国の産業」はどうつながるのかについて、思うことを自由に書いてみます。
自給率アップへの道をぜひ皆さんと一緒に歩くために、もう少しお付き合いください!

Written by. iijima

 

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