~生まれた仔牛も2歳ちょっとで母牛になり、搾乳デビューするよ~
乳牛は乳を出すことがお仕事です。牧場にとっては、飼養するすべての牛たちがなるべく絶え間なく搾乳できることが理想です。
牛もほかの哺乳動物同様、仔牛を産まないと乳は出ません。仔牛を産んでから乳が出始めて、1カ月半~4カ月くらいで泌乳量のピークを迎えます。そしてちょうどそのころ、お母さん牛は次の妊娠ができる体に戻りますから、また発情期を見はからって人工授精(通称:種付け)をします。
出産をして1カ月とちょっとでまた妊娠!しかも泌乳しながら妊娠し、妊娠を継続しながら乳を出し続けるなんて、人間では考えられないはなしですが…。乳牛はそれが可能な体に改良されているようです。
そうしておなかの中で仔牛を育てながら搾乳を続けていくと、分娩後7カ月を過ぎたころから泌乳量がグンと減ってきます。それでもさらに2カ月以上は搾乳が続けられ、あと2カ月で次の分娩という時期まできたら、搾乳はお休みになります。これは「乾乳」(かんにゅう)といって、分娩に備えて体をいたわるための産休のようなものです。
仔牛が生まれたらまた乳が出始めますから、分娩から6日目からは搾乳に復帰します。そして分娩から1カ月半ほど過ぎたら、また次の妊娠をするための種付けです。このように、乳牛は1年周期で妊娠、泌乳、乾乳、分娩を繰り返して生きています。
もしも次の妊娠をしないまま搾乳をし続けたとしたら、どうなると思いますか?乳量はだんだんと減ってゆき、1年を過ぎるころには乳が出なくなるといわれています。
ですから牧場では、どの乳牛にも毎年1回、必ず妊娠出産をさせて搾乳を続けているのです。
生まれた仔牛が雌だったら、牧場にとっては2年後の戦力です。そのまま牧場内で育てられ、誕生から約2カ月間の哺育期を経て、育成牛という育ちざかりの少女時代を過ごします。
月齢14~16カ月を迎えた育成牛は妊娠適齢期で、この時期に初めての種付けを行います。そして初の受胎を果たしたら育成牛から卒業し、初妊牛という名で呼ばれます。
牛の妊娠期間も人間と同じで約10カ月。初めての妊娠ライフを育成牛たちとのんびり過ごします。そして初の分娩をして、搾乳デビューをして、そしてまた次の妊娠…。
こうして乳牛は、生涯に2~5回ほど分娩をして、搾乳が困難になると引退をしていきます。搾乳が困難になる時とは、足腰が弱くなり自力で立てなくなる時。そのほか繁殖障害や乳量の低下が著しくなった場合もリタイアのタイミングです。
小さな酪農家の奥さんが、こんな話をしてくれました。
「中にはプロ意識の強い牛もいてね、おばあちゃんになっても、少しでも長く現役でいようと意地を見せるのよ。以前うちに8回もお産をしてくれた牛がいたんだけど、6回目のお産あたりから立てなくなることがよくあったのね。そのたびに、ああとうとう引退かなと思うのだけど、何度でも立ち上がる。あの心意気はあっ晴れだったあ。うちは、立ってくれたら何歳の牛にだって種付けするよ」
それでもやがて引退の時は来ます。その時はどの酪農家も「おつかれさま。ありがとう」の言葉をかけて牛を見送ります。
引退後のこと。これも大切な話ですから、またの機会に…。