乳用牛が乳を出し続けるためには、毎年種付けをして、毎年出産をしなくてはなりません。ですから牧場では仔牛がひんぱんに誕生しています。
牧場スタッフが、“今日あたり生まれそうだな”と見極めると、母牛を分娩舎という専用部屋に移し、昼夜を通してこまめに見守り続けます。そして母牛が尻尾を上げたり下げたりをし始めたら陣痛が来ているサイン。6時間後くらいには赤ちゃんが誕生するので、スタッフは清潔な敷料を入れてあげるなど、分娩のための準備をし始めます。
乳牛の分娩は十人十色。もとい十牛十色です。短時間でするりと分娩できる牛もいれば、産道が狭くてなかなか生まれない牛もいます。また、人間にはめったにないものの、牛にはよくある子宮捻転などの症例で、獣医師の処置や介助が必要な例もあります。
母牛の陣痛が強くなり、いよいよお産が始まると、まず仔牛の脚が2本ニョキッと出てきます。これが前脚で、爪を天井に向けていたら正常ですが、この前脚がさかさまで出ていたり、後ろ足だったりしたらちょっと厄介。逆子です。
「この赤ちゃん、逆子だ!」となると、牧場スタッフは産道内で仔牛を正常な体制に戻したり、お産ロープを仔牛の脚に結んで引っ張り出すなどして分娩を助けます。
また生まれてきた仔牛が羊水を飲んで仮死状態の時は、スタッフが人工呼吸器具で羊水を素早く吸い出し、酸素を送り込んで蘇生させるそう。牧場スタッフは、助産師や看護師のような役割も果たしていたのですね。
「牛のお産は最初が肝心。とにかく最初は安産にしてあげたいのよね」と話してくれたのは、ある酪農家の奥さん。
「初産の牛は産道が狭いから分娩に時間がかかりがちだけど、それで難産になってつらい思いをしちゃうと、そのトラウマで2回目からも弱気になりやすい。するとうまくいきめなくてまた難産になってしまう心配があるからね」
生涯のうちに3~5回は出産をするであろう乳用牛ですから、最初の出産は成功裡に終えたいのが牧場の心情。だから初産は楽に済むよう小さい仔牛を産ませたい。そこで近年よく行われているのが、ホルスタインよりも体が小さな黒毛和種の種付けです。
授精適齢期といわれる生後14~16カ月の雌のホルスタインに、黒毛和種の精子を人工授精させるのです。すると、ホルスタインと黒毛和牛とのミックスである肉用牛の交雑種(F1)の仔牛が生まれます。
このように、なるべく安産に。異常があっても対応できるようにと準備万端で臨む乳牛の分娩ですが…。時々、「いや~今朝、牛舎に行ってみたら、仔牛が生まれててびっくりしたさ」と笑いながら話している酪農家さんもいます。
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