6~7月の長雨や豪雨が、日本各地の酪農家に与えた影響とは?|酪農のはなし

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牧草はこのくらいの生育期で収穫できると、栄養価はピークで、牛さんにとっても1番おいしい

【聞いてみた】

酪農業は畑作農業に比べ、天候不順に影響されにくいとされています。しかし今年の日本は6月下旬から7月上旬にかけ長雨が続き、特に西日本豪雨は酪農業にも大きな被害を及ぼしました。
断水や停電で搾乳機器やバルククーラーが使えない、牛の飲み水が足りない、道路の寸断でミルクローリー車が集乳に行けないなどの理由で、1週間近くも生乳を出荷できずにいた酪農家があったようです。

農林水産省が8月14日に発表した「平成30年7月豪雨による被害状況等について」を見ると、岡山県、広島県、愛媛県など6府県の酪農家で合計108トンの生乳廃棄と記載されています。なんと牛乳パック10万本以上が無駄になった計算です。決して小さくはないダメージを負いながらも、迅速な復旧や対策によって被害拡大が食い止められたと現地の新聞も伝えています。被災地の牛舎に元気が戻って来ていることを祈るばかりです。

しかし、今後は今後で、別の心配が募ってきています。
それは前述の長雨で全国の牧草が栄養不足になり、その牧草飼料を食べ始める秋以降から、乳牛たちが従来ほど乳を出せなくなってしまう懸念です。8月10日の北海道新聞が大きく報じています。見出しは「牧草収穫遅れ 酪農家苦悩」「6~7月に長雨 一番草の栄養低下」。

日本の生乳生産の48%(※)を担う北海道においては、乳牛の飼料は牧草を原料とする粗飼料が半分強で、残りが穀物中心の濃厚飼料です。祖飼料の栄養価が低いと、乳牛が出す乳の量は減りますし、牛の体調不良にもつながります。牧草は乳牛の泌乳量と健康を左右し、酪農経営のよしあしを握る重要なものです。

北海道や九州などでは粗飼料を自給している酪農家が多く、毎年牧草地で牧草を栽培し、一番草の栄養価がもっとも高くなる6月下旬から7月上旬を狙って収穫をしています。ところが今年はこの収穫時期に長雨が続き、よいタイミングで収穫ができなかったのです。北海道を例にすると、平均11~12日も収穫が遅れ、牧草が伸びすぎたり、穂が出て花が咲いたりしたところもあったようです。

「花が咲いてしまうと、茎には炭水化物やたんぱく質などの栄養がほとんど無い状態。そのぶん濃厚飼料の配分を多くして栄養補給をしないと、牛が出す乳の量はかなり減ると思う。うちは1週間遅れで収穫をしたけど、この遅れがいったいどの程度栄養低下に影響するか…。一番草の粗飼料は今年の秋以降から牛たちに食べさせるので、それから搾乳をしてみないと、なんとも言えないわ」

そう話すのは釧路管内のある酪農家の奥さん。

関東から嫁いできて20年。

「これほど一番草の収穫が遅れたことはなかったよ。おそらく来年の収入は減ると思う。どれだけ減るかなんて、今からまったく分からないわ~」
そう笑い飛ばした声には、かすかに北海道のイントネーションが混じっていました。

(※)2015年(平成27)農林水産省 畜産統計より