今、放映中の「なつぞら」は昭和30年ころの時代設定ですね。しばた牧場の牛舎は新築され、飼養頭数も増えてその数はざっと10頭?あの時代なら地域を代表する大牧場です。
増頭したことで照男兄さんや富士子お母さんも牛舎仕事に加わり、家族と従業員6~7人で手搾りの搾乳をしています。1人で1~2頭を担当する計算でしょうか。それを朝夕、2回。
日本の酪農界にパイプライン・ミルカーなど電気を使った搾乳システムが導入されたのは1965(昭和40)年以降ですから、しばた牧場もあと10年くらいはバケツに手搾りを続けることでしょう。
見ていると簡単そうに見える手搾りですが、じつはそう簡単ではなくコツが必要なうえ、「しばらくやると手が疲れて痛くなる」と、現代の酪農家さんは言っています。とはいっても、今の時代は手搾りで搾乳をすることなどめったになく、搾乳器具を乳頭に取り付ける前に、前搾りのためにさっと手搾りをするくらいだそうですが。
ちなみに前搾りとは、搾乳の前に少しだけ乳を出すことで、乳頭内に残っている細菌数の多い乳を除去したり、乳頭に刺激を与えて乳がよく出るようにしたりするための作業です。
そして今の酪農家さんは、「やったことがないから分からないけど、たぶん今の時代なら、手搾りはおそらく不可能。1頭を搾ることもできないのでは」とも言っています。
昭和30年代までしていたことを、今はできないとはどういうこと?
その理由は牛の泌乳量が変わったことにありました。この60~70年でホルスタイン種は品種改良が重ねられ、泌乳量も倍以上になっているといわれています。現在の平均的な乳牛は1日に20~30リットルもの乳を出します。朝夕2回の搾乳なら1度に10~15リットルほど出すということです。それに対し、なつたち柴田家の人々がブリキバケツに満たしている1頭1回分の乳は、おそらく4~5リットルくらいではないでしょうか。
昭和30年代の手搾りにしろ、今の機械搾りにしろ、1頭に適した搾乳所要時間はほぼ同じ。4~5分以内です。これ以上かけても乳が出にくくなるうえ、牛の体に負担をかけたりストレスを与えたりして良いことはありません。
もしも今の牛を手搾りしたとしたら、おそらく20分近くかかるのではという所見もあります。そんなにかかっては搾る手が痛くてたまりませんし、何より牛が耐えられないでしょう。途中で嫌がり搾りきることができず、搾り残した乳のせいで乳房炎を起こしたり、乳頭がダメージを受けて傷害を起こしたり…。牛の病気につながると想像できます。
だから今の時代、手搾りは不可能。もとい現実的ではないということなのです。
逆に考えると、電気を使った機械搾乳機が入ってきたことで、日本の酪農は多頭飼養や生産量増が可能になったといえそうです。
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