日本の牛は乳用牛も肉牛も、仔牛も成牛も、総じて高値になっている
【考えてみた】
「牛が高い」。2015年あたりからよく聞く言葉です。
乳用牛の場合。おなかに仔牛がいるホルスタイン種の初妊牛は、即戦力になるうえ、その先何年も働いてくれる若い牛ですから、もっとも価値がある牛といえます。その初妊牛は2013年までは1頭あたり平均50万円だったのに、14年から急激に値上がりし続け、18年にはとうとう90万円をこして100万円の大台に乗ってしまった地域もあったそうです。
たった4年で2倍! 驚きの高騰です。もし乗用車が4年で倍の価格になったとしたらどうでしょう。困る人が大勢でてきて社会問題にもなるのではないでしょうか。
初妊牛ほどではないにしろ、ホルスタインの仔牛も経産牛も値上がりしているそうです。
ではなぜこんなことになったのでしょう。それは流通する牛の頭数が減っているから。乳牛の世界も少子化が加速していたのです。ではなぜ減ってしまったのか。
その理由の第1は、牛の人工授精技術が進歩し、雄雌産み分けが可能になったことにありました。そしてもう1つ、肉牛の生産農家が減少したことも関係しているのです。
牛の産み分けができるなんて! この事実にも驚きますが、それと肉牛農家の減少がどうかかわってくるのか? 気になりますね。じつは、高齢化などの理由によって日本の肉牛農家が年々減り、国産肉牛が減少していました。そしてその解決策として白羽の矢が立ったのが酪農家。
14年ころから、「国産肉牛を増産するために、ホルスタインに肉牛を産んでもらいたい」というニーズが生まれてきたのです。ホルスタインは毎年仔牛を産まなければ搾乳できないのだから、それなら和牛を掛け合わせたり、和牛の受精卵を移植したりして肉牛を産んでもらおうよ、というわけです。
そしてこの酪農家のお手伝いを可能にしたのが、先に記述した「雄雌産み分け技術」です。酪農家は、自家に必要なホルスタインの雌を計画的に産ませることができるので、肉牛の人工授精が随時できるようになりました。
和牛の仔牛は小さいので、初産の乳牛が安産になりやすいというメリットもありますし、肉牛に高値がついたことで、肉牛お産を手伝う酪農家が増えました。今も肉牛需要は高く、高値が続いています。以前であればほとんど値段がつかなかったようなホルスタインの雄仔牛に、肉用として10万円の値がつくほどです。
そのため今もホルスタインは余剰に産まれず、市場で乳用牛は希少です。品薄は高騰を引き起こし、「肉牛バブル」は「牛バブル」を呼びました。そのおかげで、酪農業界でもっとも必要なはずの雌ホルスタインが不足するという、本末転倒な事態が起こっています。
初妊牛が1頭100万円という尋常じゃない価格でも、必要に迫られたメガファームは購入し、なんとか生乳生産を維持しています。その一方で、病気や事故で搾乳牛の頭数を減らしてしまった牧場は、購入しようにも手が出ず、規模縮小をしたところもあるようです。また初妊牛の高騰は、酪農業の新規就農をさらに難しくもしています。
需要と供給のバランスが崩れたために起こっている、乳用牛の少子化と高騰。これは日本の生乳生産に影を落とさないだろうか。日本の酪農業に負荷をかけはしないだろうか。気がかりを秘めつつ…。いつもの牛乳がいつもの価格で並んでいる、そんな日本であり続けて欲しいと願うばかりです。