3:ヒトの自給率を左右する「飼料自給率」。牛さんの食べものはどうなの?

日本のカロリーベース食料自給率が低い理由に「飼料自給率による換算」という要因がありました。
食卓にならぶ野菜や肉だけでなく、それらが育つ環境から考える必要がありそうです。今回は牛の飼料「とうもろこし」について考えてみました。

●家畜動物だって、日々の食べ物がなければ生きていけない

牛をはじめ、豚や鶏のえさを「飼料」といいます。食べるものはそれぞれ違いますが、牛は「粗飼料」や「濃厚飼料」を、豚や鶏は「濃厚飼料」を中心に食べています。粗飼料とは牧草や稲などのことで、濃厚飼料はとうもろこしなどの穀類や豆などのほか、油脂、豆腐の搾りかす(おから)や、ビールかす、米ぬかなどの食品副産物もあります。この食品副産物には地域性もあり、醤油かすやワインの“おり”のほか、天候不順などにより出荷できなかった野菜などを給与する場合もあります。ちなみにみなさんが食べているとうもろこしは「スイートコーン」で分類上は野菜、ここでのとうもろこしとは別のものです。
こうした飼料のカロリーベース自給率は驚くほど低くて、粗飼料は78%、濃厚飼料はなんと10%です。これも消化吸収が可能な養分だけを算出対象にする「可消化養分総量」で算出されています。

●濃厚飼料の代表選手「とうもろこし」。日本は世界最大の輸入国

日本は国内でとうもろこしをほぼ作っていませんが、世界で8番目の大・消費国です。輸入先はとうもろこし最大生産国でもあるアメリカで、75%を飼料に使っています(2018年実積)。近年ではバイオ燃料の原料にもなるため、もはや食品としての需要だけではありませんが、エタノールに分解されたあとの蒸留かすが飼料になるということもあるようで、これが工業廃棄物なのか食品残さなのか、はたまた加工食品なのか、素人にはよくわかりませんが、このまま日本が飼料として必要な量を入手できるのかは不透明です。
乳製品はここ5年ぐらいをかけて少しずつ小さくなったり容量を減らされたりして実質の値上げになっていますが、この飼料の入手リスクが反映されたものではありません。今後もし飼料価格が上がることになれば、その負担は生産者を経て消費者に回ってくることも考えられるのです。

【参考】
統計資料【国内情報】とうもろこしの輸入実績 農畜産業振興機構
(ページの中ほどにPDFへの最新のリンクがあります)

●収穫した後のとうもろこしなどに、農薬を使用していいアメリカ

心配なのはコストだけではありません。アメリカでは穀物貯蔵時などに虫が湧いたりカビたりしないよう、収穫後の農産物に農薬を使用していいことになっており、それを「ポストハーベスト」といいます。エネルギー源として使われる前のとうもろこしは供給過剰だったため、積み上げた在庫を保管するために使用されてきています。
健康を維持するために「食べた方がいい食品」などを列記した本がベストセラーになっていますが、牛乳は避けた方がいいと書いてある本はだいたいこの輸入飼料が心配の原因だと言及しています。センセーショナルに書かれているものは強く印象に残りがちですが、牛乳自体が体に害悪を与えるという指摘ではありません。ですが全面的に輸入に頼っている以上、他国のルールにのっとって生産されたものには踏み込みようがなく、この投げかけられた不安に対する答えは今のところ誰も持ち合わせていないのです。

●日本の中だけで「食の安全」にキリキリこだわっても・・・。

日本では、使用禁止されている農薬の成分が輸入品と一緒に入ってこないように、残留基準値を設定した「ポジティブリスト制度」を設け、飼料も含めてチェックされています。日本では収穫後の農産物は食品とみなすため、認められている成分も数値も外国に比べ厳しいようですが、これらは「食品添加物」として解釈されており、厚生労働省による食品衛生法の管轄になっています。
農産物を把握している農林水産省ではないため、情報共有は大丈夫なの?という心配もなくはありませんが、そもそも「食」というものへの感覚やルールは国によって千差万別なので、様々なリスクを承知で海外から輸入しているのが現状、と考えた方がよさそうです。たとえばアメリカでは、とうもろこしに限らず大豆も遺伝子組み換えOKです。輸入品に混ざって外来種の虫が入ってくるといった話も聞くようになりました。日本にとって好ましくないことだけを、将来にわたって都合よく防げるのだろうか、という心配がうまれるのももっともです。あれ?うまれません?

●答えは出ないけどもう少し続く、飼料自給率について

「じゃあナニ?一体どうしたらいいっていうのさ?」という疑問には、筆者にもサクッと答えが出てきません。そもそも家畜は牛だけじゃないわけだし、飼料だってとうもろこしだけじゃない。しかし、とうもろこし一つでもこんなに面倒な話がズルズルと紐づいて出てくるわけで、一筋縄ではいかないんだな、と気づくだけでもけっこう重要なことだとは思います。
「国内で作れないなら海外から買えばいい」ということにもリスクはあるよね、ということを頭の隅に置くことができればかなりオッケーだと考えましょう。そうなると次に浮かぶのは、じゃあ国内生産はどうなってるの?ということだと思います。次回はこのあたりのことについて書いてみたいと思います。引き続きお付き合いください。

Written by. iijima

 

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