~1億2,700万人をささえる、酪農家1万7,700戸~
酪農家は毎年4%ずつ減っていて、わずか10年前から約4割も減少
日本の食糧自給率は、先進国の中でもっとも低いといわれていますが、牛乳の原料となる「生乳」はなんと100%国産です。これはとても素晴らしく、そして誇らしいこと。北海道から沖縄まで点在する日本の酪農家のおかげで、私たちはメイドインジャパンの牛乳や乳加工製品に囲まれて暮らすことができます。
では日本の人口約1億2,700万人は、いったい何戸の酪農家でまかなわれ、年間どれくらいの生乳を生産しているのでしょう?畜産統計の数字からひも解いてみます。
北海道から沖縄県まで、現在(2015年)、全国にいる酪農家はおよそ1万7,700戸。10年前(2005年)の2万7,700戸に比べ、約4割減少しています。後継者不足等により、毎年約4%ずつ減り続けてきたのです。
47都道府県にある酪農家1万7,700戸で、137万1,000頭の乳用牛を飼養
このように酪農家戸数は顕著に減り続けましたが、牛の頭数はそう大きく減っていません。現在国内の飼養頭数(乳牛の総数)は137万1,000頭で、経産牛数(出産して搾乳している乳牛)は87万頭。いずれも10年前に比べ、約2割の減少にとどまっています。
このことから、現在の酪農家が牛の頭数を増やして経営している現状が見て取れます。
日本の酪農家戸数の4割近くがいる北海道で、大規模化が進んでいることも背景にあるでしょう。1戸の牧場で300頭以上、さらには1,000頭以上という多頭経営に乗り出したり、後継者がいない小規模酪農家が集まってひとつの法人として経営する、いわゆる「メガファーム化」が目立ってきています。
一方で47すべての都道府県に酪農家が点在している事実も見逃せません。あまり知られていませんが、大都市圏にも酪農家はいて、東京都では54戸が1,660頭を、大阪府でも31戸が1,370頭を飼養しています。
こうしたことから、日本全国各地に散らばる1戸1戸の経営によって、日本の乳用牛頭数(乳牛の総数)は微減で済んでいることがうかがえます。
酪農家が減り、飼養頭数も微減するなか、一頭当たりの生乳生産量はアップ
生乳生産量をみるとさらに興味深いことが分かります。10年前の生乳生産量830万トンに比べ、現在は740万トン。この10年に経産牛数が2割減っていても、生乳生産量は1割程度の減少でくい止められていました。つまり牛が減っているほどには生産量は減っておらず、ほぼ維持されてきたということです。その理由は何でしょう?
・ホルスタイン種の品種改良が進み個体あたりの泌乳量(一頭が乳を出す量)が増えたこと。
・牧草や飼料の栄養価が向上したこと。
・飼養する際に牛にストレスを与えないなど、牛の健康に配慮する酪農家の取り組みの向上。
これら酪農業を取りまく産業と人々の努力によって、一頭あたりの生乳生産量が上がったものと考えられています。
年間740万トンの生乳と聞いてもピンときませんが、これを国民ひとりあたり1日分の量に換算してみると…。なんと約160ml。コップ1杯ほどしかありません。これらは今いる酪農家が生産している貴重な1杯。そのおかげで今は、国産の牛乳や乳製品がある毎日を送ることができています。
いままでは酪農産業の奮励で食卓を充足。このまま将来も、日本の総人口を支えきれるのか?
では、将来についてはどうでしょうか?
日本は長期の人口減少過程に入っているとはいえ1億2,000万人を下回るのは約10年後(2026年)で、1億人を割るのは30年後(2048年)の予測です。10年で4割減ってきた酪農家戸数に比べれば、きわめてゆるやかな推計。
今後も減り続ける見込みの酪農家が、20年後、30年後にも日本の食卓を満たしているなら、消費者にとって幸せなことですが、それは容易ではないはずです。
これから先も、国産の牛乳や乳製品が身近にあるニッポンであってほしいと願わずにいられません。
※端数は四捨五入しています
※統計数字は、2015(平成27)年の農林水産省・畜産統計(2月1日現在)及び、2016(平成28)年の総務省統計局・人口推計(4月1日現在)によります