酪農家の経験と観察眼、そしてAIなど新技術でも見極める時代
牛の発情を発見することは日々における重要ミッション
発情とは、雌が雄を受け入れ交配できる期間のことです。牛は季節にかかわらず、およそ18~23日、平均21日間隔で発情を繰り返します。そして排卵が起こり受胎可能となる発情期間はとても短く、10~24時間程度といわれています。牧場はこのタイミングを見極めて、主に人工授精で繁殖を行っています。
1回の発情を見逃すとまた次の発情を待たなくてはなりませんし、人工授精を行っても必ず受胎するとも限りません。とにかく最短で人工授精を試みることが肝心です。そして最短で仔牛が増えて、最短で搾乳牛となり泌乳できること。これが牧場経営の理想です。
ですから牧場スタッフにとって、牛の発情を発見することは日々における重要ミッション。発情牛はいくつかの特有行動を見せるので、牛たちを観察しながら、そのサインを見つけ出します。
発情の兆候はいくつかあるけど紛らわしいことも
発情の兆候はいくつかあります。高い声で鳴いたり、食欲が落ちたり、落ち着きなく歩き回ったりするほか、牛同士で並んだりすり寄ったり、ほかの牛に後から乗りかかる「乗駕(じょうが)」などの行動にも表れるそうです。特に乗駕行動は発情をしめす典型的な行為で、マウンティングとも呼ばれます。写真は、育成牧場で見られた、発情の兆候とされる乗駕(じょうが)行動です。
牛に牛が乗りかかるなんて分かりやすい行動ですから、見つけたらすぐに分かるだろうと思われますが、そう簡単ではありません。発情した牛からは分泌物が出ているので、この匂いに誘われて、ほかの発情していない雌牛も同様の行動をとることがあるので紛らわしいのです。
飼養頭数が多いと目配りにも限界が
そんな本物とイミテーションが混在する、あちらこちらの乗駕の中に、「これは間違いない」とされる明白な行動があります。それが「乗駕許容」といわれるもの。こちらはマウンティングに対し、スタンディングと呼ばれます。自分も乗りかかるけれど、その一方でほかの牛に乗られても嫌がらず、乗せたままじっとしている牛がいたら、その牛はほぼ当たり。発情していると見て間違いありません。
しかし牧場スタッフも四六時中、牛を観察し続けることは不可能ですし、飼養頭数が多いとすべての牛に目を配ろうにも限界があります。そこで、乗駕許容をするとインクが出るようなマーカーを牛に貼るなどして、発情発見に役立てています。また近年ではAI(人工知能)によって発情を検知する、牛群検知システムを導入する牧場も増えてきています。
発情は繁殖成績を左右し、ひいては収益に直結する大切なこと。牧場の人々は21日に1度しかない発情を見逃さないよう、毎日牛たちを観察しています。