牛乳や乳製品は万能食材。和食から意外なアイデアまで、楽しんで使ってみて
テレビやラジオへの出演や、雑誌などへのレシピ発表、そして料理教室でも活躍中の料理研究家、満留邦子先生。これまで考案した牛乳・乳製品を使ったレシピは、乳業メーカーの料理サイト用に開発したものだけでも700種以上にのぼります。
牛乳や乳製品とどのように付き合っていくとよいでしょうか?
満留先生はこれまで牛乳や乳製品を使うレシピをたくさん考案されてきました。その中でもとっておきのメニューや、日常で試しやすい使い方などを教えてください。
日本ではまだ牛乳や乳製品を料理に使うことが定着していないのでチャレンジしにくいかもしれませんが、いつもの料理に牛乳や乳製品を足したり、下ごしらえで使ったりする方法は意外とあるんです。
たとえば、いつものポテトサラダにヨーグルトを混ぜると、さわやかさがプラスされて軽い仕上がりになりますね。ドレッシングのアレンジにも活躍しますよ。マヨネーズを牛乳でのばすと、コクを残しながらサラリとするので使いやすくなります。
あとは、野菜炒めなどで味が決まらないな、という時には溶けるチーズを加えると味がまとまります。
また、牛乳は臭み消しもするので、ハンバーグのタネに混ぜると焼き上がりは風味よくジューシー。魚のムニエルには切り身の魚に牛乳をまぶして10分ほど置くと臭みが取れて、きれいな焼き目もつきますね。
牛乳や乳製品は、和食にも使えますか。
もちろんです。和食も乳製品でワンランクアップします。お米と乳製品はよく合うし、酢めしとチーズの相性は抜群です。巻きずしやばらずしにプロセスチーズを使ってみてください。あと、炊き込みご飯の隠し味にはバターですね。ほんの少し入れるだけで、コクが増してとってもおいしくなるんです。
もっと意外なものでいえば、茶碗蒸しかな。茶碗蒸しの具に、カマンベールチーズを一切れゴロンと入れちゃうんです。とろ~りとしたチーズと和だしのコラボはおどろくおいしさ。食べやすいとご年配の方にも喜ばれましたよ。
チーズ入りの茶碗蒸し!聞くだけで作ってみたくなります。
茶碗蒸しでいえば、だしの代わりに牛乳を入れるミルク茶碗蒸しもいいですね。マイルドな味わいになって、牛乳の存在には気づかないかもしれません。
クリームは鶏肉などの照り焼きの仕上げに加えるとコクが増します。あと、発酵食品同士は相性が良いんですよ。味噌をヨーグルトでのばしたものは、豚しゃぶのタレになったり、和えごろもになったり、温野菜のソースになったりと用途が多彩。漬けものとヨーグルトやチーズのとりあわせは、ご飯もお酒もすすむメニューのどちらにも変身できますよ。
どれも意外な取り合わせですが、ちょっとした仕上げ使いでおいしさがアップするのですね。
では、牛乳や乳製品を使う際のコツなどはありますか。
牛乳や乳製品の持ち味はフレッシュな風味やクリーミーさ。これらを失わないよう、入れるタイミングと、煮立てすぎないことを気にとめておくと大丈夫です。
乳製品は味噌との相性もよいので、味噌汁に牛乳を少し加えるとまろやかになって風味が増します。意外でしたか?(笑)この場合、味噌を牛乳で溶いて最後に加えると良いでしょう。
カレーにヨーグルトを加える場合も同様、仕上げに。あるいは風味を楽しむためにカレーを器へよそってから添えるのもいいですね。
ほかに意外な使い方はありますか。
乾物との組み合わせですね。麩を牛乳で戻したり、切り干し大根をヨーグルトで戻したりできます。たとえば切り干し大根を戻すときに、水の代わりにヨーグルトに7~8時間漬け込んで戻すことができます。水分を棄てないので乾物に含まれるカリウムやビタミン群などを摂取できるうえ、乾物がヨーグルトの水分であるホエイ(※)を吸収してくれて、水分がきれたヨーグルトはそのまま和えごろもになります。一石三鳥ですね。
ヨーグルトといえば、プレーンヨーグルトに適量の塩(※※)をプラスした「塩ヨーグルト」も万能選手ですよ。肉や魚介料理のソースとしてかけたり、和えたり…。あとは肉や魚の漬け床にするとしっとりやわらかくなる効果もあります。
高齢者を中心に日本人の低栄養、特に低たんぱくが懸念されている昨今。牛乳や乳製品をこまめに使って、いつものメニューがおいしくなったり栄養価がアップしたりするなら、とても良いことですね。
そうですね。牛乳や乳製品にはカルシウムはもちろんのこと良質のたんぱく質が含まれていますから、日々の食事にもっと取り入れていただきたいです。
今回ご紹介したアイデアは意外なものもあり、驚かれたかもしれませんね。でも調味料の一つだと思うぐらい気軽にどんどん試してもらえるとうれしいです。難しく考えないで、日々の家庭料理に少量ずつでも試してみてはいかがでしょう。
満留先生は、日本の牛乳や乳製品について、どう感じていますか。
これまでは品質がよく、安全が保証されているというようなイメージしか持っていませんでしたが、今回、ジャパンクオリティの記事を読んで、日本の酪農家さんが陰で数々の努力をされていたということを知って、私の意識も少し変わりました。
牛乳や乳製品に限らず、当たり前のように私たちの手もとに届いていた食材は、たくさんの人の仕事と努力によって届いていたのですよね。そう気づくと、食材に失礼がないよう、無駄にせず大切に食べきるようにしたいと思いました。
そして私の仕事。料理研究家としてレシピを開発することは、生産者と食卓をつなぐことではないかとも思えるようになりました。
牛乳や乳製品の生産・加工に従事する人々がいて、満留先生のようにレシピを考案する人がいる。どちらのプロフェッショナルも私たち消費者にありがたい存在です。ぜひ日々の暮らしに活かしていきたいです。
一番お伝えしたいのは、「食は楽しい」ということ
満留先生は料理教室の講師もされていますね。どのようなことを考えて教えていらっしゃいますか?
私が生徒さんに一番お伝えしたいのは、「食は楽しい」ということ
食べることも、作る事も楽しい
それには2つの役割を感じていまして、料理研究家としてレシピを考案することが1つ目です。ですが、レシピを簡潔に書きあげて、正確な分量や作り方を伝えられたとしても、調理のコツまではうまく伝えきれない場合があって、そこを補える場面が2つ目の料理教室だと考えています。
料理教室では私の考案したレシピを生徒さんといっしょに調理して、流れやポイントなどを直接お伝えできて、しかも味の感想や作り方に対する生の声も聞けますので・・・。ですから、レシピ開発と料理教室講師の仕事の両方を大切にしています。
レシピとともに、調理のコツまで伝授する。その効果は大きいのでしょうね。
そうですね。料理って難しいことじゃないし、楽しいことなのね、とたくさんの人にそう実感していただけることが私の願いです。
お話を聞いていると、満留先生の料理教室は楽しそうです。
私の教室は堅苦しくなくて、和気あいあいとにぎやかな雰囲気ですね。生徒さんは家族のごはん作りを担う主婦の方がほとんど。いままで自己流だったけれど、一度ちゃんと基本を学んでみようとか、料理のレパートリーを増やそうとか、そう考えて来られる方が多いようです。なので、今さら聞くのは恥ずかしいかなって思うことでも、何でも聞いてくださいねと言っています。
料理教室で、よく質問されることはどんなことですか。
乳製品についていえば、クリームを泡立てる方法はよく伝えますね。クリームは目的や用途によって、七分立て、五分立て、三分立てなどと泡立て方が違うのですが、どの固さであっても基本は同じ。ボウルの下に氷水を当てて冷やしながら、ゆっくり時間をかけて泡立てることが重要です。そうすることで空気をたっぷり含み、ふんわり口当たりがよく、時間が経っても分離しにくいホイップクリームができあがります。ところが、クリームって常温の方が短時間で簡単に泡立ってしまうんですよ。だから氷水を使わなくても大丈夫!という方が多くて、「それは間違いです。氷水は必要なんですよ」って言うと、皆さん「知らなかったわ~」って(笑)。
満留先生のレシピは、食材も工程もシンプルだから誰にでも作りやすく、それでいてしっかりおいしいと定評がありますね。
ありがとうございます。やはり、料理の楽しさを通して「食は楽しい」と感じていただくためには気軽にトライしてもらうことが大切ですよね。ですからレシピも、「省けることは省く」ことを第一に考えて作ってあります。レシピが複雑だと忙しい毎日では取り入れにくいですよね。だから私のレシピは、しなくてもよいことはしない。入れなくてもよいものは入れない。おいしさへまっしぐらの“近道レシピ”なんです。(笑)
そのスタンスにたどり着くにいたった、理由は何でしょう。
たぶん、私の生い立ちが原点だと思います。私が子どものころ、家がレストランを経営していまして、当然、昼食や夕食時が一番忙しいのですが、母はいつも手作りお総菜を作り置きしてくれていました。大豆の五目煮とか、ひじき煮、青菜のおひたしなど。あとは私が肉や魚さえ焼けば主菜と副菜のそろった一食が完成する、といったように、バランスよく栄養が摂れるよう考えられていましたね。私が管理栄養士になって、そのことに気付きました。母は空き時間を見つけては、せっせと作っていたんだと思います。
今思うと、身近にある食材で家族の健康を考え、上手に工夫した料理ばかりで…。そうした背景もあり、「食の大切さ」を考えることがベースにあるのかもしれません。
満留先生を育てたお母さんの手料理。どんな味が記憶に残っていますか。
ミルク料理で思い出すのは、さつまいものポテトグラタンです。故郷が宮崎県なので特産のさつまいもを乱切りにして、たまねぎや鶏肉も入って。じゃがいもと違って、さつまいもの甘さとホワイトソースが溶け合ったクリーミーな味…。懐かしいです。 ミルクチャウダーもよく作ってもらいましたね。たっぷりの野菜とベーコンが入っていて、これも大好きでした。
家庭の味や手作り料理は、体だけではなく、人生まで作る大切なものなのですね。でも、「ちゃんと作らなくちゃ」と思い詰めると、毎日がつらくなっちゃいます。
あっ、そこが落とし穴なんです(笑)。
“ちゃんと上手に”と最初からハードルを上げてしまうと料理が億劫になってしまいます。たくさんの食材を使おうとか、見た目に豪勢にしようとか、頑張りすぎる必要はないと思うんです。たとえば、ご飯と味噌汁に、残り野菜で野菜炒めを作るだけでも「ちゃんとした手作りの一食」です。
ささやかであっても、自分の手で切って、煮たり焼いたりする。その行為こそが、かけがえのないものじゃないでしょうか。
かけがえのないもの。それは、家族や自分への愛であり、生活習慣でもあり…。たかが食、されど食。う~ん、奥深い。
大切なのは気持ち
“作りたい”という気持ちであったり、“誰かのために”または“自分のために”という気持ちであったり。“おいしいものを食べたい”とか“おいしいものを食べさせたい”とか“食材をおいしく調理したい”とか…。そうこうしているうちに、いつの間にか段取りもうまくなって“ちゃんと上手に”ができるようになっているものです。 そうやって日々の食事を作って、暮らしていく。楽しくて愛おしい、いとなみだと思います。
満留先生のお話を聞いていると、なぜか料理を作ってあげたい人の顔が浮かんできます。そして、気負わず楽しくキッチンに立てそうな気がしてくるから不思議です。ありがとうございました。
お話を伺いました

料理研究家 管理栄養士 満留邦子(みつどめくにこ)先生
宮崎県出身、東京都在住。大学の家政学部を卒業後、料理研究家のアシスタントなどを経て2000年に独立。テレビ、ラジオ、雑誌、新聞などへのレシピ発表のほか、料理教室講師や企業のレシピ開発、コンサルティングなど幅広く活躍。