4月1日から始まったNHK連続テレビ小説「なつぞら」100作目は、主人公の柴田家が牧場を営んでいます。時々流れる酪農シーンをピックアップして「乳の大地から」で酪農視点の解説をお届けします。
ドラマでは毎回、搾乳など牧場の仕事が丁寧に描かれています
搾乳は手搾りが当たり前だった時代
柴田家の父、剛男(藤木直人)や祖父の泰樹(草刈正雄)が両手で手搾りを始めると、バケツの中に白い乳汁がジャーッジャーッと溜まっていきますね。あの場面を見ながら、“牛のお乳って、まっすぐと、1度になかなかの量が出てくるものだなあ”と思った人は多いことと思います。
牛の乳頭は4本あり、そしてお乳が出てくる穴は乳頭1本につき1個です。穴が結構大きいので、乳汁は太く真っすぐに出てくるわけです。ちなみに、人間のお母さんだと乳首に複数の穴があり、お乳は細く放射状に出てきます。
今ではほとんどの牧場が、電気を使った機械搾乳システムを利用
今はほとんどの牧場が、パイプライン・ミルカーやミルキングパーラーなど電気を使った機械搾乳システムを利用していますが、1965(昭和40)年くらいまでは、どこの牧場でもあのように手搾りの搾乳を行っていました。
今も昔も変わらないこと、清拭(せいしき)
この50数年で日本の酪農業は大きく変わりました。しかし変わらないこともあります。例えば、なつも搾乳の前に牛の乳頭を布でやさしく、でもしっかりと力を込めて拭いていたあのふるまい。あれは「清拭(せいしき)」という作業で、今の時代も変わらず行われています。
清拭を行う理由の一つ目は、牛の乳頭をきれいにして、搾った生乳にできるかぎり菌を混入させないためです。そしてもう一つ、お乳がたくさん出るように牛の乳頭を刺激するためでもあります。お母さん牛の乳頭は刺激を受けると、別名「愛情ホルモン」ともいわれるオキシトシンが出て、乳房内にある乳が自然と送り出されてくるのです。
そしてオキシトシンは放出から1分程度でピークを迎え、4~5分でもとに戻ります。ですからこの4~5分が搾乳のためのゴールデンタイム。第3話では泰樹もなつに、この時間で搾乳を終えるように言っていましたね。
プロフェッショナルはいつの時代も聡明
ホルモンと泌乳のメカニズムなどまだ知られていなかったであろう70年前から、「清拭はいろんな意味で重要。そして搾乳は4~5分が勝負!」と先人たちに理解されていたようです。
プロフェッショナルはいつの時代も聡明。そして大切なことは、昔も今も変わらないと感じるシーンでした。