乾乳(かんにゅう)| 牛さんにも、2カ月ほどの産休ライフがある

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出産前は搾乳をしないで体を癒し、おなかの子牛に栄養を届けるよ

乾乳(かんにゅう)とは身体をいたわるためのもの

乳牛はほぼ毎年出産をして継続的に生乳を出していますが、分娩の前後だけはのんびりとできる、産休のようなものがあります。期間は出産前の40~60日間と、出産後おおむね5日間で、この間は「乾乳」と呼ばれています。それにしても、搾乳をせず乳首が乾いているから「乾乳」とは、言い得て妙ですね。

乳牛が出産の約2カ月前から搾乳をやめて出産に備える理由はいくつかありますが、その第1は、ずっと働いてきた体をいたわり疲労を回復させるため。写真は、牧草地で自由に過ごす乾乳牛です。

たくさん食べてたくさん乳を出してきたお母さん牛は、胃や肝臓、乳頭、乳腺、ひづめまで、どこもかしこもおつかれさまですから…。分娩後に十分な乳量を産出するために、出産前の休息期間はとても必要なのです。もちろん、おなかの子牛にしっかりと栄養を届けるためにも

乾乳期は悠々自適の産休ライフ

では乾乳期に入ったお母さん牛には、どのような生活の変化が待っているのでしょう。酪農家さんに聞いてみました。

「まず搾乳舎から、乾乳舎に引っ越しをします。乾乳の牛と育成牛を同じ舎に入れている牧場もあるね」

初めて乾乳を経験する若いお母さん牛も、ちゃんと環境の変化に慣れますか?

「最初は戸惑うよ。今日からお仕事はお休みだよ~って乾乳舎に連れて行くと、“なぜ私だけみんなから隔離されるの?”っていう顔をしてソワソワしだす。そして内気な子は不安そうに、気の強い子は少し怒ったように「ベエ~!」と鳴くのだけど、2~3日もしたら慣れて悠々自適の産休ライフだよ(笑)」

ベテランお母さんは乾乳も慣れたものですか?

「経産牛も、乾乳初日は少し落ち着かないそぶりを見せるけど、そこはやっぱり経験者。“ああ、またあれか”と思い出すようで、すぐに順応しているわ」

分娩前の乾乳期で行うこと

なぜわざわざ乾乳舎に引っ越しをさせるのですか?

「乾乳牛と搾乳牛とでは給餌内容が違うこともあるけど、1番大きいのは搾乳の習慣を思い出させるものから完全に切り離すためだね。乾乳牛が搾乳機械の音を聞いたり、搾乳牛の気配を感じたりしてしまうと、条件反射で乳が漏れ出てしまうことがあるから」

ほかに乾乳期の重要ポイントはありますか?

「清潔でストレスなく過ごせる環境が大事だね。乳房炎を防ぐためにも。だけどもっとも重要なのは栄養管理かな。もう乳は搾らないから配合飼料は少な目にして、胃に良い乾草を中心に給餌するのだけど、おなかの子牛が大きくなるにつれ、胃を圧迫するから食欲が落ちてくるのよ」

大好物の配合飼料が少なくなっては、よけい採食量が減ってしまうのでは?

「そうならないよう気を配る。乾乳期の健康と栄養管理が、次期の泌乳量を決めると言ってもいいくらいだからね」

乾乳期も栄養補給は重要なのですね。

「そうだね。でも栄養過多もよくないの。太ってしまうと産道に脂肪がついて難産になってしまうから。これは人間も同じだよね。だから乾乳牛は毎日パドックに出して、適度な運動をさせているよ。そして乾乳後期になったら今度は徐々に配合飼料を増やしていって、本格的に復帰に向けた体作りをしていくわけ」

無事に分娩を済ませた後も、5日間の産休

そして無事に分娩をしたら、それから5日間はまだ産休なのですよね。

「そう。分娩後5日以内の生乳は初乳といって、免疫物質やビタミン、脂肪などを豊富に含むスーパーミルクなんだけどね、固まる性質のたんぱく質が多いなど、人間には不向きだとされて出荷ができないんだよ。だから分娩後5日目(目安)までが乾乳期。
でも実際は分娩直後から搾乳しているよ。子牛が飲んで、余った分は私たち酪農家がいただきます」

6日目の生乳を検査し、乳成分が適正であると確認されたらやっと出荷開始です。お母さん牛の搾乳復帰が始まります。そしてそれから2カ月もしたら、また妊娠適齢期。そして妊娠しながら搾乳を続け、次の乾乳期まで乳を出し続けます。

1年のうち300~320日も乳を出し続けているお母さん牛だから…。
約2カ月間の乾乳期は、つかの間の休息時間といえそうです。
ちなみに初産の乳牛だけは乾乳期がありません。理由は若くて元気いっぱいだから。